【2025】VTuberと交わす契約書のポイント・注意点は?弁護士がわかりやすく解説

VTuberと交わす契約書のポイント・注意点は?弁護士がわかりやすく解説

VTuberとは、「アバター」と呼ばれるキャラクターをまとって動画配信や動画投稿などをする配信者です。「Vライバー」と呼ばれることもあります。

VTuberは「Virtual YouTuber」の略称であるものの、VTuberが使うプラットフォームはYouTubeに限られるわけではありません。YouTubeで配信活動をするVTuberもいる一方で、TwitchやTwitCasting(ツイキャス)、ニコニコ生放送などで配信活動をするVTuberも存在します。

VTuberは事務所などに所属せず活動することもある一方で、人気のVTuberの多くは事務所に所属して活動しています。

では、VTuberが事務所に所属する際、その契約形態にはどのようなものがあるのでしょうか?また、VTuberと締結する契約は、どのような点に注意して作成すべきなのでしょうか?今回は、VTuberが事務所に所属する際の主な契約形態や、VTuberと締結する契約書に設けるべき主な条項などについて詳しく解説します。

なお、当サイト(エンタメ弁護士.com)はエンタメ法務に特化した専門家チームであり、弁護士・弁理士である伊藤海が運営しています。VTuberと所属契約を締結しようとする際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご相談ください。

VTuberを事務所に所属させる場合の主な契約形態

VTuberが事務所に所属する場合、契約の形態には主に次の4つが検討できます。ここでは、それぞれの概要を解説します。

  • 雇用契約
  • 準委任契約
  • 請負契約
  • タレント専属契約

雇用契約

雇用契約とは、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することで効力を生ずる契約です(民法623条)。会社員などが会社で働き始める際に締結する契約であり、多くの人にとって身近な契約の1つでしょう。

VTuberが事務所に所属する際、雇用契約を締結することがあります。たとえば、自社のPRのために専属のVTuberと契約する場合や、自社の従業員としてVTuberに活動してもらいたい場合などです。ただし、その場合であっても一般の従業員のような無期の契約とすることは多くなく、3年や5年程度の有期契約とすることが多いでしょう。

なお、雇用契約の場合には労働基準法などが適用されるため最低賃金の規定や休日の規定などが適用されるほか、解雇も制限されます。また、原則として、社会保険料の負担も必要です。

準委任契約

準委任契約とは、当事者の一方が法律行為でない事務を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することで効力を生ずる契約です(同656条、643条)。たとえば、VTuberが配信をすることは「法律行為でない事務」にあたると考えられ、これを委託する場合に準委任契約が活用されることとなります。

雇用契約とは異なり、準委任契約では報酬支払いの取り決めは契約成立の要件ではありません。しかし、VTuberと準委任契約を締結する場合は、報酬の支払いを約束する有償契約とすることが一般的です。

請負契約

請負契約とは、当事者の一方がある仕事の完成を約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することで効力を生ずる契約です。「家を建てる」など、建築請負契約で用いられることの多い契約形態です。

長期的な所属契約が請負契約とされることは少ないものの、「1本の動画を作成してアップロードする」など、VTuber単発の業務を依頼する場合には請負契約の性質を持つことがあります。なお、請負契約では仕事の成果が重視されるため、原則としてその過程は問われません。

タレント専属契約

VTuberが事務所に所属する場合は、タレント専属契約を締結することが多いでしょう。タレント専属契約はタレント等が事務所に所属する際に締結される契約の通称であり、民法などの法律に定めのあるものではありません。

雇用契約や準委任契約、請負契約は民法に定めのある典型契約であるため、契約書に記載のない事項については法律の規定が適用されます。たとえば、再委託について準委任契約の契約書に定めがない場合には自動的に準委任契約に関する民法の規定が適用され、委任者の許諾を得たときとやむを得ない事由があるときを除き、再委託はできないことがわかります(同644条の2)。

一方で、タレント専属契約は民法などに記載がなく、契約の内容に関して拠りどころとなる具体的な条文はありません。そのため、規定に漏れが生じたり齟齬が生じたりしないよう、より慎重な契約書の作り込みが必要となります。

VTuberと契約書を交わす際の注意点

VTuberと契約を締結する際、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、契約締結に際して特に注意すべき事項を3つ解説します。

  • 本人確認・年齢確認を徹底する
  • 齟齬が生じないよう契約内容を明確にする
  • 事前に弁護士へ相談する

本人確認・年齢確認を徹底する

1つ目は、本人確認や年齢確認を徹底することです。

活動にあたって、VTuberは素顔や本名、年齢などを公開していないことが少なくありません。そのため、契約しようとしている人が本当にその「中の人」であるのか、本人確認を徹底する必要があるでしょう。

また、VTuberが未成年である可能性も否定できません。VTuberが未成年であることに気づかないまま所属契約を締結すれば保護者から契約を解除される可能性があるほか、トラブルに発展するおそれもあるでしょう。そのため、必ず本人確認書類などから事前にVTuberの年齢を確認したうえで、未成年の場合には保護者の同意を取り付ける必要があります。

齟齬が生じないよう契約内容を明確にする

VTuberとして活動しているのは比較的若い層であることも多く、契約に関する十分な知識や経験が乏しいことも少なくありません。そのため、一般の消費者と契約を締結する場合などと同様により丁寧に契約条項を説明するなど、齟齬を生じさせないための工夫が必要となるでしょう。

事前に弁護士へ相談する

VTuberと取り交わす契約書を作成しようとする際は、事前に弁護士へご相談ください。弁護士へ相談することで契約実態に即した、より的確な契約書の作成が可能となります。

また、VTuberとの契約で生じやすいトラブルから「逆算」して、設けるべき条項についてアドバイスを受けることも可能となります。VTuberと締結する契約書の作成でお困りの際は、エンタメ弁護士.comまでご相談ください。

VTuberの所属契約書の主な条項

VTuberと所属契約書を締結する場合、どのような条項を設ければ良いのでしょうか?ここでは、VTuberと締結する契約書に設けるべき主な条項と、各条項のポイントを解説します。

  • 専属・非専属の別
  • 報酬体系
  • 活動費用の負担
  • 商標権の帰属
  • 著作権の帰属
  • VTuberの禁止事項・遵守事項
  • 契約期間・更新

ただし、ここで紹介するのは一例であり、実際にはその契約について重視すべき事項や条項などに応じて設けるべき条項は変動します。VTuberと契約書を交わそうとする際は、エンタメ弁護士.comまでご相談ください。

専属・非専属の別

VTuberと交わす所属契約書では、専属・非専属の別を定めます。

専属の場合、そのVTuberは他の事務所と重ねて契約を締結することはできません。また、事務所を通すことなく自身で仕事を獲得することも禁じることが多いでしょう。一方で、非専属の場合には重ねて他社と契約することも自由です。

事務所としては、せっかくコストや手間をかけて育成したVTuberが自分で仕事を獲得したり他社と契約を締結したりすれば、自社が収益を得る機会を逸してしまいます。また、活動の全体像が把握できなければ、適切なマネジメントも困難です。そのため、専属契約として、事務所を通さない仕事の獲得を禁じることが多いでしょう。

報酬体系

VTuberと交わす所属契約書では、報酬体系を定めます。VTuberの報酬は、次のいずれかの形態とすることが多いでしょう。

  • 完全歩合制:VTuberが受けた仕事に応じて、歩合報酬のみを支払う形態
  • 固定報酬制:VTuberが受けた仕事量にかかわらず、毎月一定の報酬を支払う形態
  • 固定報酬と歩合との混合制:毎月一定の報酬を支払うとしたうえで、VTuberが受けた仕事に応じて歩合報酬を加算する形態

いずれを選択するかは契約締結時点だけで判断するのではなく、契約期間中におけるそのVTuberの将来的な活躍度合いも見越して検討すべきでしょう。

たとえば、現在は仕事がさほど多くないVTuberとの契約に固定報酬制を採用する場合、一時的には事務所の持ち出しが多くなるかもしれません。しかし、その後仕事が増えれば事務所側の手残りが多くなります。

活動費用の負担

VTuberと交わす契約書では、活動経費の負担についても定めます。活動経費とは、たとえば通信費やプラットフォームの利用料、イベント参加時の交通費・宿泊費などです。

これらの活動費用はVTuberが負担すると取り決める場合もあれば、通信費とプラットフォーム利用料はVTuberが負担する一方で、イベント参加時の交通費や宿泊費は事務所の負担とするなど、経費によって負担者を変える場合もあります。

商標権の帰属

商標とは自社の商品・サービスを他社の商品・サービスと差別化するために用いる名称やロゴなどであり、VTuberの名称なども商標に該当し得ます。この商標について特許庁に出願して登録を受けることで、商標権が発生します。商標権が発生している商標は所定の商品・サービスの区分において権利者が独占排他的に使用でき、他者がこれを無断で使用すれば差止請求や損害賠償請求などの対象となります。

VTuberが事務所に所属するにあたって、VTuberの活動名などを事務所が商標登録することがあります。事務所が商標登録を受けることで、動画配信の展開やグッズ化、他社とのライセンス契約の締結などがスムーズとなりやすいためです。

しかし、VTuberに無断でその名称について商標登録を受ければ、VTuberとの間でトラブルとなる可能性が高いでしょう。これに備え、所属契約書で事務所が商標出願をすることについてVTuberが同意する旨の条項や、すでに商標登録を受けている場合にはこれを事務所が譲り受ける旨の条項などを入れることが検討できます。

著作権の帰属

著作権とは、著作物を保護する権利です。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を指します(著作権法2条1項1号)。その範囲は非常に広く、VTuberの「ガワ」のイラストやVTuberの配信動画なども著作物となり得ます。

著作権には商標権のような登録制度はなく、創作時点で著作者に自動的に発生します。VTuberの「ガワ」はVTuber側が用意していることが多いうえ、配信内容もVTuber側が検討することが多いでしょう。そのため、契約書に取り決めがなければ、VTuberの活動に伴って生じる著作権は、原則としてVTuber側に帰属します。

しかし、VTuberに著作権が帰属すれば、スムーズな営業活動や二次利用などに支障が出る可能性があります。そのため、著作権は事務所に帰属する旨を定めることが多いでしょう。

VTuberの禁止事項・遵守事項

VTuberと交わす契約書では、VTuberの禁止事項や遵守事項を定めます。事務所として守ってもらいたい事項や違反時の対応などを契約書に明記することで、違反時の契約解除や損害賠償請求などが容易になります。また、違反の抑止力ともなるでしょう。

契約期間・更新

VTuberと交わす契約書では、契約期間や更新について定めます。契約期間は1年から3年程度とすることが多いでしょう。あまり長期の契約になると、VTuberの人気の変化などに対するスピーディーな条件改訂が困難となるためです。

併せて、更新についても定めます。更新は現在の契約内容をそのまま踏襲すると定めるのではなく、必要に応じて改訂の協議ができる旨を定めると良いでしょう。

VTuberの契約書に関するよくある質問

続いて、VTuberの契約書に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。

VTuberの契約書はひな型を流用すれば良い?

VTuberと契約を締結する際に、ひな型をそのまま流用することはおすすめできません。なぜなら、ひな型はあくまでも一般的なケースを前提とした一例でしかなく、自社の契約実態に即しているという保証はないためです。

そのため、VTuberと交わす契約書はひな形を流用するのではなく、契約実態に合わせて作成することをおすすめします。

自社での作成が難しい場合や不安がある場合には、エンタメ弁護士.comへご相談ください。ご相談いただくことで、契約実態に即し、かつ自社が契約において重視したい事項を盛り込んだ契約書を作成しやすくなります。

VTuberの契約書は「活動名」で交わしてもよい?

VTuberと交わす所属契約書は「活動名」ではなく、本名で交わすことが原則です。

「中の人」を秘匿して活動しているVTuberであっても、契約書には住所と本名を記載してもらうべきでしょう。事務所が本名などの身元を知らなければトラブル発生時の対応が困難となるほか、源泉徴収などの事務手続きにおいても問題となるためです。

VTuberの契約書は、エンタメ弁護士.comにお任せください

VTuberと交わす契約書の作成は、エンタメ弁護士.comまでご相談ください。エンタメ弁護士.comとは、弁護士・弁理士である伊藤海が立ち上げた、エンタメ法務に特化した専門家によるチームです。最後に、エンタメ弁護士.comの主な特長を3つ紹介します。

  • 必要に応じて、専門家がチーム制で対応する
  • カルチャー・エンターテイメント法務に特化している
  • 英文契約書にも対応している

必要に応じて、専門家がチーム制で対応する

最適な相談先は、困りごとの内容によって異なります。たとえば、VTuberと締結する契約書の作成やトラブル発生時の対応は弁護士が適任である一方で、源泉徴収であれば税理士、社会保険の加入であれば社労士が適任です。また、困りごとの内容によっては、複数士業の専門分野にまたがることもあるでしょう。

エンタメ弁護士.comは、困りごとの内容に応じて最適な専門家が対応にあたります。また、必要に応じて、複数の専門家がチーム制で対応することも可能です。そのため、相談にあたって「誰に相談すべきか」と悩む必要はありません。

カルチャー・エンターテイメント法務に特化している

カルチャー・エンターテイメント法務に分野を得意とする専門家は限られており、VTuberにまつわる問題を相談できる専門家は多くないでしょう。

エンタメ弁護士.comの専門家は全員がカルチャー・エンターテイメント法務に強みを有しているため、業界実態を踏まえたより的確なサポートが可能です。

英文契約書にも対応している

VTuberは日本を代表するカルチャーとなりつつあり、VTuberを擁する事務所が海外の企業や個人と契約を交わす場面もあるでしょう。エンタメ弁護士.comは英文契約書にも対応可能であるため、海外との契約であっても一貫したリーガルサポートが可能です。

まとめ

VTuberと交わす契約の概要やVTuberと変わる契約書に盛り込むべき内容などを解説しました。

VTuberと交わす契約は雇用契約や準委任契約などである場合もあるものの、タレント専属契約であることが多いでしょう。これは民法の典型契約ではありません。そのため、契約内容に齟齬を生じさせないため、契約書を作り込む必要があります。

VTuberと交わす契約書には、専属・非専属の別や報酬のほか、商標権・著作権など知的財産権の取り扱いについても明記しておくべきでしょう。必要な事項を契約書に漏れなく定めることでトラブルの抑止につながるほか、万が一トラブルが生じた際にもスムーズな解決をはかりやすくなります。

エンタメ弁護士.comはカルチャー・エンターテイメント法務に特化した専門家チームであり、VTuberと交わす契約書についてのサポートも可能です。VTuberと交わす契約書について相談できる専門家をお探しの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にお問い合わせください。

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