PR案件の委託・受託をする際は、契約書を取り交わすべきでしょう。PR案件に関して契約書を交わしていないことは、さまざまなトラブルの原因となり得るためです。
では、PR案件で契約書を交わさない場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか?また、PR案件の契約書には、どのような条項を盛り込む必要があるのでしょうか?今回は、PR案件の契約書の概要や契約書がない場合に想定されるリスク、PR案件の契約書に盛り込むべき条項などについて、弁護士がくわしく解説します。
なお、当サイト「エンタメ弁護士.com」は芸能・エンタメ法務に特化した専門家チームであり、PR案件の契約書についても豊富なサポート実績を有しています。PR案件の契約書作成・レビューでお悩みの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご相談ください。
PR案件の契約書とは?
PR案件の契約書とは、PR案件の受発注をする際に取り交わす契約書です。
契約は原則として口頭でも成立するため、契約書がないからといって無効となるわけではありません。しかし、契約書がないことはさまざまなリスクの原因となるため、受発注に際しては契約書を交わしておくべきでしょう。
PR案件で契約書がない場合に生じ得るリスク
PR案件で契約書がない場合、具体的にどのようなリスクが生じるのでしょうか?ここでは、想定される主なリスクを3つ解説します。
- 「ステマ」が発生した際に委託者が責任を問われるおそれがある
- 業務範囲に齟齬が生じてトラブルとなる
- 相手方に問題があっても契約解除が困難となる
「ステマ」が発生した際に委託者が責任を問われるおそれがある
1つ目のリスクは、「ステマ」が発生した際に委託者が責任を問われるおそれが生じることです。
ステマとは「ステルスマーケティング」の略称であり、広告であることを消費者に隠して、商品やサービスを宣伝する手法です。ステマが消費者の購買行動に与える影響は小さくないことから、2023年10月1日に施行された不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景表法」といいます)5条3項に関する告示により、ステマが規制されることとなりました。
ただし、このステマ規制による規制対象は広告主であり、インフルエンサーやアフェリエイターなどではありません。そのため、ステマが生じた際に景表法違反となり得るのは広告主であり、ステマについて「広告主である事業者の関与があったか否か」が問題となります。
契約書があり、そこにステマに該当する行為を禁じる旨の規定があったからといって、これだけで事業者の責任がないと断言できるものではありません。しかし、契約書にこのような表記があることは、広告主がステマに積極的に関与していない(インフルエンサー側が、勝手にステマにあたる行為をしてしまった)ことを窺わせる重要な資料となるでしょう。
一方で、契約書がない場合には広告主がステマを禁じていた旨の証拠が乏しくなり、広告主にとって不利に働くおそれがあります。
業務範囲に齟齬が生じてトラブルとなる
2つ目のリスクは、業務範囲に齟齬が生じてトラブルとなるおそれがあることです。
契約書を取り交わすことで、「何を依頼したのか」「それに対していくらの報酬を支払うのか」の取り決めが明確となります。一方で、契約書がなければこれらの事項に齟齬が生じ、トラブルに発展しかねません。
たとえば、広告主としてはインフルエンサーに、「期間中、複数回に渡ってPR動画をあげてほしい」と考えている一方で、インフルエンサー側としては「1回のPR動画の投稿の対価である」と考えている場合などが挙げられます。
契約書で依頼するPR業務の内容を明確にしておくことで、このような齟齬によるトラブルを抑止できます。
相手方に問題があっても契約解除が困難となる
3つ目のリスクは、相手方に問題が生じても契約解除が困難となることです。
PR業務を発注したものの、相手方に何らかの問題があり契約を解除する必要が生じる場合もあるでしょう。たとえば、自社のPR動画であるはずが動画内で競合他社の商品も褒めている場合や、インフルエンサーが問題発言により「炎上」し、イメージが低下した場合などです。
しかし、「予定した期間内にPR動画をアップロードしない」など明らかな債務不履行である場合を除き、契約書に明確な規定がなければ、これらを理由とした契約解除は困難でしょう。契約書に「禁止事項」を定め、これに反した場合に契約解除ができる旨や損害賠償請求の対象となる旨を定めることで、問題が発生した際にスムーズな解除がしやすくなります。
PR案件の契約書に盛り込むべき主な内容
PR案件の契約書には、どのような条項を盛り込めば良いのでしょうか?ここでは、主な条項とポイントを解説します。
- 委託するPRの内容
- 報酬
- 諸経費の負担
- 契約期間
- 知的財産の帰属
- 秘密保持
- 禁止事項
- 契約解除・損害賠償
委託するPRの内容
PR案件の契約書には、委託するPR業務の内容を明確に記載します。ここでは、可能な限り具体的に、どのような媒体(YouTube、Xなど)にどの程度の投稿をするのかなどを定めます。
また、投稿前に広告主の確認を受ける必要がある場合には、その旨も明記しておきましょう。先ほど解説したように、委託内容が不明瞭な場合には齟齬が生じ、トラブルになる可能性があるためです。
報酬
PR案件の契約書には、報酬額を記載します。報酬額は固定とする場合もあれば、インフルエンサーのフォロワー数や「いいね」数、そのインフルエンサー経由で販売した数量などによる変動制とすることもあります。
特に、変動制の場合には誰が算定しても同じ金額となるよう、基準とする数値やその算定期間、フォロワー数などの基準日などを明確に定めておきましょう。
諸経費の負担
PR案件の遂行にあたって、交通費などの諸経費が発生する場合、その諸経費はどちらが負担するかを定めます。
なお、PR案件の受託者がインフルエンサーなど日頃から自身で情報発信をしている者である場合、通信費やプラットフォームの利用料はインフルエンサー側の負担とすることが一般的です。
契約期間
PR案件の契約書では、契約の開始日と終了日を定めます。インフルエンサー側は、この期間内に「委託するPRの内容」に定められた業務内容を遂行することとなります。
知的財産の帰属
PR案件では、PR動画の撮影などのコンテンツ制作は受託者であるインフルエンサー側が行うことが少なくありません。この場合、その動画の著作権は原則としてインフルエンサー側に帰属します。
広告主が今後その動画を自社HPに掲載するなど二次利用したい場合には、動画の著作権の譲渡を受けたり、動画の著作権はインフルエンサー側に残したまま利用許諾を受けたりするなどの条項を設ける必要があるでしょう。
秘密保持
PR案件の受発注では、秘密保持条項を設けることが一般的です。これは、契約の遂行にあたって知り得た秘密を漏洩しない旨の条項です。
広告主としては、情報解禁前に新商品の情報が漏れる事態や、インフルエンサーにいくらの対価でPR案件を発注したのかが明るみに出る事態を避けたいと考えることでしょう。一方で、インフルエンサー側としても広告の締結にあたって本名などの個人情報を開示すべき場合もあり、これが漏洩する事態は避けたいと思います。
このような情報の漏洩を避けるため、契約書に秘密保持条項を設け、当事者双方が秘密保持の義務を負います。
禁止事項
PR案件の契約書では、禁止事項を定めます。ここでは、違法な行為のほか、「違法ではないものの、やってほしくないこと」も盛り込むと良いでしょう。たとえば、「PR動画内で競合他社の商品に言及すること」などです。
また、禁止事項の1つとして、ステマも明記することをおすすめします。
契約解除・損害賠償
PR案件に関してトラブルが生じた場合に備え、契約解除や損害賠償請求について定めます。契約解除については、たとえば「本契約に違反し、違反を是正するよう催告したにもかかわらず催告から〇日以内に違反が是正されない場合は本契約を解除する」のように、解除までに踏むべきステップと催告から解除までの期間などを明確に定めます。
併せて、相手方の債務不履行や契約違反によって契約解除に至った場合には、損害賠償請求ができる旨も明記しておくと良いでしょう。なお、損害賠償の予定額を定める場合もあります。
PR案件の契約書の作成を弁護士に依頼する主なメリット
PR案件の契約書作成を弁護士に依頼することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、主なメリットを4つ解説します。
- 契約実態に合った契約書が作成できる
- 契約内容についてアドバイスが受けられる
- トラブル発生時の対応がスムーズとなりやすい
- 手間や時間が削減できる
なお、エンタメ弁護士.comは芸能・エンタメ法務に特化しており、PR案件の契約書についても豊富なサポート実績を有しています。PR案件の契約書の作成やレビューについてサポートをご希望の際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご相談ください。
契約実態に合った契約書が作成できる
1つ目は、契約実態に合った契約書が作成しやすくなることです。
形だけの契約書であれば、インターネットを探せばひな形などが簡単に見つかるかもしれません。しかし、ひな形はあくまでも一定のケースを前提とした一例でしかなく、実際の契約実態には合致しないことがほとんどです。そこで、契約実態に合わせてひな形を適宜作り変える必要があります。
とはいえ、これには法令や契約に関する十分な知識が必要であり、これらが不足する状態でひな形を作り変えれば、法令に違反したり条項同士に矛盾が生じたりしてトラブルの原因となりかねません。
弁護士にサポートを依頼することで、実態に即した的確な契約書が作成しやすくなります。
契約内容についてアドバイスが受けられる
2つ目は、契約内容についてアドバイスが受けられることです。
弁護士は、クライアントから言われた内容をただ書面に書き起こすのではありません。契約の目的や状況、クライアントからの要望などに応じ、望ましい条項などのアドバイスも提供します。これにより、よりトラブル抑止につながる、自社に有利な契約書を作成しやすくなります。
トラブル発生時の対応がスムーズとなりやすい
3つ目は、トラブル発生時の対応がスムーズになりやすいことです。
弁護士は、実際の紛争に関与することも少なくありません。そのため、生じやすい紛争の内容や、紛争発生時に重視される契約条項なども熟知しています。
したがって、弁護士にサポートを依頼することで紛争発生から「逆算」をした望ましい契約条項の検討が可能となり、トラブル発生時にスムーズかつ自社に有利な解決をはかりやすくなります。
手間や時間が削減できる
4つ目は、手間と時間が削減できることです。
実態に即した的確な契約書を自社だけで作成しようとすると、多大な手間と時間を要します。契約書の作成に慣れていない場合には1つずつ法令や適切な条項などを確認していく必要があるためです。
弁護士に依頼することで、自社で投じる手間と時間を最小限に抑えられ、本業に注力しやすくなるでしょう。PR案件の契約書作成でお困りの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご連絡ください。
PR案件の契約書にまつわるよくある質問
続いて、PR案件の契約書にまつわるよくある質問とその回答を2つ紹介します。
PR案件の契約書はひな形を使えば問題ない?
PR案件の契約書作成にあたってひな形をベースにすること自体はよいものの、ひな形をそのまま流用することは避けるべきです。なぜなら、ひな形はあくまでもあるケースを想定した一例でしかなく、自社が締結する契約実態に即しているとは限らないためです。
ひな形を活用する場合にはそのひな形の各条項を十分に理解したうえで、契約実態に合わせて作り変える必要があります。とはいえ、これも容易なことではないでしょう。お困りの際は、エンタメ弁護士.comにご相談ください。
PR案件の契約書に印紙税はかかる?
PR案件の契約書に印紙税がかかるか否かは、その契約書の内容によって異なります。
その契約書の内容が準委任契約にあたる場合には、印紙税はかかりません。一方で、その契約書の内容が請負契約に該当するのであれば、記載された契約金額に応じた印紙税がかかります。また、特定の相手方との間において継続的に生じる取引の基本となる一定の契約書である「継続的取引の基本となる契約書」にあたる場合は、4,000円の印紙税がかかります。
契約書の内容によって印紙税の要否や金額などが異なるため、事前に確認しておくと良いでしょう。なお、印紙税は書面の契約書にかかる税であるため、電子契約の場合はその内容にかかわらず印紙税は不要とされます。
PR案件の契約書作成はエンタメ弁護士.comにお任せください
PR案件に関する契約書の作成は、エンタメ弁護士.comにお任せください。エンタメ弁護士.comとは芸能・エンタメ法務に特化した専門家によるチームであり、弁護士・弁理士である伊藤海が発案しました。最後に、エンタメ弁護士.comの主な特長を3つ紹介します。
- 芸能・エンタメ法務に特化している専門家集団である
- 必要に応じて専門家がチーム制で対応する
- 英文契約書にも対応している
芸能・エンタメ法務に特化している専門家集団である
エンタメ弁護士.comに所属する専門家は、その全員が芸能・エンタメ法務に特化しています。芸能・エンタメ業界に関わるクライアントへのサポート実績が豊富であるためコミュニケーションがスムーズであるほか、より的確なサポートが提供できます。
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PR案件にまつわる契約では、海外の企業や個人と契約を締結すべき場面もあるでしょう。エンタメ弁護士.comは英文契約書にも対応しているため、海外と契約締結すべき場面でも一貫したリーガルサポートが実現できます。
まとめ
PR案件の契約書について、概要や契約書がない場合に生じ得るリスク、契約書に設けるべき主な条項などを解説しました。
PR案件の契約にあたっては、契約書をきちんと取り交わすことをおすすめします。契約書がなければ業務範囲に齟齬が生じてトラブルに発展しかねないほか、相手方に問題があってもスムーズな解除が難しくなるおそれがあるためです。PR案件の契約書作成には注意点も少なくないため、弁護士へ相談したうえで契約実態に即した契約書を作成し、締結すべきでしょう。
エンタメ弁護士.comは芸能・エンタメ法務に特化した専門家によるチームであり、PR案件にまつわるサポート実績も豊富です。PR案件の契約書について相談できる専門家をお探しの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にお問い合わせください。
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