著作権を侵害されたら損害賠償請求できる?損害額算定方法と法的措置を弁護士が解説

著作権を侵害されたら損害賠償額請求できる

著作権を侵害された場合、相手方への損害賠償請求が選択肢に入ります。しかし、著作権侵害による損害額を具体的に算定し立証することは容易ではないでしょう。そのため、著作権法では損害額の推定規定を設けています。

では、著作権侵害による損害額はどのように算定するのでしょうか?また、著作権が侵害された場合、損害賠償請求以外にどのような法的措置が検討できるのでしょうか?

今回は、著作権侵害による損害賠償請求やその他の法的措置などについて、弁護士がくわしく解説します。

著作権侵害とは

単に「似ているもの」が創作されたからといって、必ずしも著作権侵害となるわけではありません。では、著作権侵害となるのはどのような場合なのでしょうか?はじめに、A氏が著作権者である「写真A」とよく似た「写真B」が、ある企業のウェブサイトに使用されている前提で解説します。

著作物であること

著作権侵害が成立する要件の1つ目は、著作物であることです。

著作権の保護対象となるのは「著作物」であり、著作物でなければ保護対象とはなりません。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です(著作権法2条1項1号)。

著作物の範囲は非常に広く、プロが制作したものに限られません。たとえば、写真Aが著作物となるためにA自身がプロのカメラマンであることなどは求められず、一般個人がスマートフォンで撮影したものであっても著作物となり得ます。

一方で、「思想又は感情を創作的に表現したもの」である必要があるため、人間以外が制作したものは著作物とはなり得ません。たとえば、生成AIに「ビルの写真を出して」という程度の指示を出して、生成AIが写真Aを出力した場合、これは著作物とはいえないでしょう。

ただし、AIを使ったからといって、必ずしも著作物とならないわけではありません。A氏がプロンプトを試行錯誤した結果としてAIが写真Aを出力したのであれば、創作の主体はA氏であると考えられ、A氏の著作物となる余地があります。

なお、著作権を発生させるために、登録などは必要ありません。著作物を創作した時点で、著作権は自動的に発生します。

著作権の存続期間内であること

著作権侵害が成立する要件の2つ目は、著作権の存続期間内であることです。

著作権は永続的な権利ではなく、一定の存続期間の経過とともに消滅します。著作権の存続期間は、原則として著作者の死後70年を経過するまでです(同51条2項)。

ただし、無名や変名の著作物や団体名義の著作物は、公表後70年(創作後70年以内に公表されなければ、創作後70年)で著作権が消滅します(同52条)。この期間を経過した創作物は、著作権の保護対象とはなりません。

依拠性があること

著作権侵害が成立する要件の3つ目は、依拠性があることです。依拠性があるとは、問題となっている写真Bが、写真Aを拠りどころとして撮影されていることです。

たとえば、写真Aを見た者がこのような写真を撮りたいと考え、構図などを真似て写真Bを撮影した場合には、依拠性があると判断されます。たとえ構図などが似ていても、写真Bの撮影者などが写真Aを見たことはなく単なる偶然の一致であれば、著作権侵害とはなりません。この点で、元となった商標を知らなくても侵害が成立する商標権とは、大きく異なります。

なお、たとえ裁判であっても写真Bの撮影者の頭の中を覗き見ることはできないため、実際のところ依拠したか否かはわからないでしょう。そこで、実際には、次の点などから総合的に判断されます。

  • 写真Aに接する機会があったか
  • 写真Aが周知・著名であったか
  • 依拠していない限り、これほど類似することはないといえるほどの顕著な類似性があるか
  • 写真Aに依拠せず専ら独自創作した経緯を合理的に説明できているか

なお、そもそも写真Bが独自に撮影されたものではなく、インターネット上で見つけた写真Aを多少レタッチしたりトリミングしたりしたものである場合は、当然に依拠性は肯定されることとなります。

類似性があること

著作権侵害が成立する要件の4つ目は、類似性があることです。たとえ写真Bの撮影者が写真Aに着想を受けて撮影したのだとしても、アウトプットである写真Bが写真Aと類似していないのであれば、著作権侵害とはなりません。

なお、類似性があるか否かは細部などから判断するのではなく、「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」か否かによって判断されます。

相手方が正当な権限を有していないこと

著作権侵害が成立する要件の5つ目は、相手方が正当な権限を有していないことです。

著作権は、譲渡できます。仮にA氏が写真Aの撮影者であったとしても、写真Aの著作権を他者に譲渡していたのであれば、自身の予期せぬところで使用されていたからといって著作権侵害は成立しません。

たとえば、A氏が写真Aの著作権をウェブサイト制作会社であるC社に譲渡していた場合、そのC社がある企業のホームページ制作を手掛け、そのサイト上に素材としてA氏の写真を掲載したとしても、著作権侵害とはならないでしょう。

ただし、著作権を譲渡しても、原則として著作者人格権は著作者であるA氏に残ります。そのため、意図せぬ改変をされた場合などには、著作者人格権を行使して差し止め請求などをする余地があります。

著作権侵害への損害賠償額の考え方

著作権侵害がされた場合、相手方への損害賠償請求が検討できます。ただし、著作権侵害を理由として損害賠償請求をするためには、相手方に故意または過失がなければなりません。

商標権侵害などでは侵害があった時点で相手方の過失を推定する規定が置かれているのに対し、著作権侵害には過失の推定規定はないことにご注意ください。

つまり、著作権侵害を理由に損害賠償請求をするためには、相手方の故意または過失を請求者側が立証すべきということです。

一方で、著作権侵害による損害額については推定規定が置かれています。ここでは、著作権侵害による損害賠償額の算定方法を紹介します。実際に著作権侵害がされてお困りの際は、弁護士へご相談ください。

  • 逸失利益額相当額を損害額とする方法
  • 侵害者が得た利益を損害額とする方法
  • ライセンス料相当額を損害額とする方法

逸失利益額相当額を損害額とする方法

算定方法の1つ目は、逸失利益相当額(著作権侵害がなかった場合に、権利者が得られたはずの金額)をベースに損害額を算定する方法です。この方法では、原則として次の式で損害額を算定します。

  • 損害額=「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」

ただし、侵害者が販売などした数量のすべてを、権利者が販売できたとは限りません。たとえ侵害行為がなかったとしても、権利者が販売できなかったであろう数量がある場合には、その数量に応じた価格を計算結果から控除します。

侵害者が得た利益を損害額とする方法

算定方法の2つ目は、侵害者が得た利益を損害額とする方法です。この方法では、侵害者が得た利益額が、そのまま損害額となります。

ただし、あくまでも推定規定であることから、権利者が受けた損害額がこれよりも少ないことを侵害者が立証すれば、推定が覆される(つまり、損害賠償額が減額される)可能性があります。

ライセンス料相当額を損害額とする方法

算定方法の3つ目は、ライセンス料相当額を損害額とする方法です。たとえば、侵害者が侵害物の販売によって1,000万円を売上げた場合において、ライセンス料率の相場が売上高10%であれば、損害額は100万円と推定されます。

著作権侵害時に対する損害賠償請求以外の法的措置

著作権が侵害された場合、損害賠償請求以外にもさまざまな法的措置が検討できます。ここでは、損害賠償請求以外の主な法的措置を3つ紹介します。

  • 差止請求
  • 信用回復措置請求
  • 刑事告訴

なお、法的措置はいずれか1つを選択するものではなく、複数の法的措置を同時にとることも珍しくありません。実際に著作権侵害をされた際にどのような法的措置をとるかについては、弁護士へ相談のうえご検討ください。

差止請求

差止請求とは、侵害行為を止めるよう相手方に請求することです。具体的には、次の請求などが検討できます。

  1. 侵害行為をする者に対する、その行為の停止の請求
  2. 侵害のおそれのある行為をする者に対する、侵害の予防の請求
  3. 侵害行為を組成した物・侵害行為によって作成された物・もっぱら侵害の行為に供された機械器具の廃棄その他の侵害の停止・予防に必要な措置の請求

信用回復措置請求

信用回復請求とは、著作権侵害によって権利者の信用に傷が付いた場合に、この回復を求めるものです。具体的には、謝罪広告の掲載などを求めることが多いでしょう。

刑事告訴

故意になされた著作権侵害は、刑事罰の対象となります。

著作権侵害による刑事罰は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科です(同119条1項)。また、法人の業務として著作権侵害がなされた場合には、行為者が罰せられるほか、法人にも3億円以下の罰金刑が課されます(同124条)。

書作権侵害は親告罪ではなく、告訴がなければ相手を罪に問えないものではありません。ただし、よほど悪質な侵害行為などでない限り、警察が独自に捜査を開始することは多くない印象です。

そのため、相手を刑事上の罪に問いたい場合は、権利者側が警察などの捜査機関に告訴すべきでしょう。

著作権侵害で損害賠償請求をする際の流れ

著作権侵害を理由に相手方に損害賠償請求をしたい場合、どのような流れで対応すればよいのでしょうか?ここでは、対応の一般的な流れを解説します。

  • 弁護士へ相談して方針を決める
  • 相手方に警告書を送付する
  • 仮処分を申し立てる
  • 訴訟を提起する

弁護士へ相談して方針を決める

著作権侵害が疑われる事象に気付いたら、早期に弁護士へ相談しましょう。なぜなら、先ほど解説したとおり著作権侵害が成立するにはさまざまな要件を満たす必要があり、これを自身で判断することは容易ではないためです。弁護士へ相談することで著作権侵害といえそうか否かの判断がしやすくなり、具体的な対応方針を検討しやすくなります。

なお、著作権侵害など知的財産のまつわる法務はやや特殊な分野であり、弁護士によって得意・不得意が分かれやすいでしょう。そのため、知的財産保護に強い弁護士を選んで相談することをおすすめします。

相手方に警告書を送付する

弁護士へ正式に依頼したら、弁護士から相手方に警告書を送付します。警告書とは、相手方に著作権侵害行為をやめるよう求める警告文です。送付内容の証拠が残るため、内容証明郵便で送ることが多いでしょう。

なお、初期の警告書ではじめから請求する損害賠償額を記載することは多くなく、まずは次の事項などを求めることが一般的です。なぜなら、損害賠償請求には故意または過失が必要であるところ、これらの立証が困難であるケースも少なくないためです。

  • 著作権侵害行為をやめること
  • 謝罪すべきことや、謝罪広告を掲載すべきこと

相手方が即座に行為の差し止めや謝罪などに応じた場合には、原則として、この時点で解決となります。

一方で、警告後も侵害行為をやめない場合などには、損害賠償請求などの具体的な準備に入ります。警告書を送った時点で相手方は著作権侵害が疑われていることを知っている状態となり、そうであるにもかかわらず侵害行為を続けている時点で、故意である旨が主張しやすくなるためです。

仮処分を申し立てる

警告書を送っても相手方が適切に対応しない場合には、裁判所に仮処分を申し立てます。仮処分とは、文字通り裁判所に「仮の処分」を出してもらうことです。

相手方がそのまま侵害行為を続ければ、被害が拡大するおそれが高くなるでしょう。そこで、最終的な訴訟が確定する前に、裁判所から侵害行為をやめるよう命令を出してもらいます。

訴訟を提起する

最終的には、訴訟を提起して解決をはかります。訴訟では、著作権侵害の有無や損害賠償の適正額などについて、裁判所が決断を下します。

なお、損害賠償すべき旨の判決が確定したにもかかわらず相手方が賠償金を支払わない場合には、強制執行の対象となります。

著作権侵害による損害賠償請求はエンタメ弁護士.comへご相談ください

著作権が侵害され、損害賠償請求をご検討の際には、エンタメ弁護士.comまでご相談ください。エンタメ弁護士.comは、カルチャー・エンターテインメント法務に強みを有する弁護士・弁理士・税理士・会計士・行政書士・司法書士・社会保険労務士によるサポートチームです。

カルチャー・エンターテインメント業界に携わるクライアント様を総合的にサポートするため、弁護士であり弁理士でもある伊藤海が立ち上げました。最後に、エンタメ弁護士.comの主な特長を3つ紹介します。

  • カルチャー・エンタメ法務に強いメンバーがチーム制で対応する
  • チーム制であるため一貫したサポートが可能である
  • 海外企業との取引などにも対応している

カルチャー・エンタメ法務に強いメンバーがチーム制で対応する

1つ目は、カルチャー・エンタメ法務に強いメンバーがチーム制で対応することです。

エンタメ弁護士.comのメンバーは、全員がカルチャー・エンターテインメント法務に精通しています。そのため、業界の取引慣習などを一からご説明いただく必要はありません。また、業界に特化しているため業界での事例を熟知しており、より実態に即したサポートやアドバイスが可能です。

チーム制であるため一貫したサポートが可能である

2つ目は、チーム制であるため一貫したサポートが可能であることです。

弁護士や行政書士などいわゆる「士業」の業務分野は、各業法で制限されています。そのため、たとえば司法書士は税務申告ができず、行政書士は登記申請ができません。

しかし、業務の運営にあたっては、さまざまな士業の分野にまたがる対応が必要となることも多いでしょう。また、状況によっては士業間の連絡をクライアント様が橋渡しする必要が生じ、煩雑です。

エンタメ弁護士.comはチーム制であることから、クライアント様に余計な手間が生じないうえ、一貫したサポートが可能です。

海外企業との取引などにも対応している

3つ目は、海外企業との取引にも対応可能であることです。

カルチャー・エンターテインメント業界においては、海外と取引するケースも少なくないでしょう。エンタメ弁護士.comは海外との契約にも対応しているため、「海外が関係する案件だけ、別の弁護士を探す」などの負担が生じません。

まとめ

著作権侵害の定義や著作権侵害がされた場合の損害賠償請求の概要などを解説しました。

その性質上、著作権侵害では実際の損害額を正確に算定することは容易ではありません。そこで、著作権法では損害額の推定規定を設け、損害賠償請求のハードルを引き下げています。

ただし、商標権侵害などとは異なり、過失推定の規定は設けられていない点に、注意しなければなりません。相手の過失の立証や実際の損害賠償請求を自身で行うことは容易ではないため、お困りの際は早期に弁護士へご相談ください。

エンタメ弁護士.comは、カルチャー・エンターテインメント法務に特化した専門家によるサービスチームです。代表である伊藤海は弁護士のほか弁理士資格も有しており、著作権など知的財産保護に特に強みを有しています。

著作権が侵害され損害賠償請求をご希望の際や、他者から著作権侵害を主張されてお困りの際などには、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご相談ください。