YouTuberとして活動する中では、契約書を交わす機会も少なくないと思います。契約書は非常に重要な文書であり、契約書についての理解が浅ければ思わぬ不利益を被るかもしれません。
では、YouTuberはどのような場面で契約書を交わすのでしょうか?また、YouTuberが契約書を交わさない場合、どのようなトラブルが生じるのでしょうか?今回は、YouTuberが理解しておくべき契約書の基本について、弁護士がわかりやすく解説します。
なお、当サイト(エンタメ弁護士.com)は弁護士である伊藤海が運営しており、YouTuberなどエンタメ業界に携わる方の契約書作成などをサポートしています。YouTuberとして活動する中で日々の業務や契約書について相談できる専門家をお探しの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にお問い合わせください。
YouTuberが契約書を取り交わす主な場面
はじめに、YouTuberが契約書を取り交わす主な場面を4つ解説します。
- 動画出演の承諾を得る時
- 動画編集を他者に依頼する時
- スポンサーとPR契約を締結する時
- 事務所へ所属する時
動画出演の承諾を得る時
1つ目は、他者に動画出演の承諾を得るときです。
街中などでインタビュー動画を撮影する際や、他のYouTuberなどとコラボ動画などを撮影する際には、出演者から書面で承諾を得ておくことをおすすめします。この場合の契約書(承諾書)は、YouTuber側で用意するのが原則です。
動画編集を他者に依頼する時
2つ目は、動画編集を他者に依頼するときです。
動画編集をYouTuberが自分で行うのではなく、他の企業やフリーランスなどに委託する場合があります。その場合には、委託する相手との間で契約書を交わしておくべきです。
相手が動画編集を専門的に行う企業であれば相手方が契約書を用意する場合もあるものの、フリーランスなど契約書の用意がない場合にはYouTuber側で契約書を用意するとよいでしょう。
スポンサーとPR契約を締結する時
3つ目は、スポンサーとPR案件の契約をするときです。
YouTuberがPR案件の委託を受け、委託内容に沿った動画を作成・投稿する場合があります。その場合には、依頼者である企業との間で契約書を締結しましょう。PR案件の受託の場合には、委託者である広告主が契約書を作成することが一般的です。
事務所へ所属する時
4つ目は、YouTuberが事務所に所属するときです。
YouTuberは個人で活動することが多い一方で、事務所に所属して活動することもあります。事務所に所属することでPR案件を獲得しやすくなったり、事務所主催のイベントに出演することでチャンネル登録者数を増やせる可能性があったりするなど、メリットも大きいためです。
YouTuberが事務所に所属する際には、事務所との間で契約書を交わします。この場合の契約書は、事務所側が用意するのが一般的です。
そもそも「契約書」とは?
そもそも契約書はどのような役割を持ち、どのような効力を持つのでしょうか?ここでは、YouTuberが知っておくべき契約書の主な役割を解説します。
- 法令の定めを変更する
- 法令に定めのない事項を定める
- 「言った・言わない」や齟齬を避ける
法令の定めを変更する
契約書の主な役割の1つ目は、法令の定めを変更することです。
たとえば、フリーの動画編集者に「動画の編集をして、期日までに成果物を納品する」ことを依頼する場合、これは請負契約に該当することが多いでしょう(準委任契約に該当する場合もあるものの、ここでは請負契約に該当すると仮定します)。
請負契約は民法に定めのある「典型契約」であり、契約に別段の定めがなければ民法の規定が適用されます。たとえば、報酬の支払い時期について、民法では次のように規定されています(民法633条)。
報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定を準用する。
この「624条1項」は雇用の条文であり、次の内容です。
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
つまり、請負契約に該当する動画の編集を依頼する場合において契約書に報酬の支払い時期について規定しなければこの民法の規定が適用され、原則として「目的物(動画)の引渡しと同時」に支払う必要が生じるということです。しかし、実際には月末などにまとめて支払うことが多く、「同時に」支払うことは現実的ではないでしょう。
そこで登場するのが契約書です。契約書で、「報酬は、請求書発行後30日以内に支払う」や、「報酬は、毎月1日から末日までの納品分を、翌月末日までに支払う」などと規定すれば、契約書の定めが民法の規定に優先されます。このように、契約書は法令の規定を変更する役割を有します。
なお、法令の中には「強行規定(契約書で異なる定めができない規定。異なる定めをしても抵触する範囲で無効となる)」ものも存在します。そのため、契約書で法令と異なる定めをする際は、その定めが強行規定に反していないことを確認することも必要です。
法令に定めのない事項を定める
契約書の主な役割の2つ目は、法令に定めのない事項を定めることです。
たとえば、民法には請負契約には下請け(再委託)を制限する規定はありません。つまり、契約書で別段の定めがなければ、自由に下請けができるということです。
しかし、動画編集を依頼する際は「その人」だから任せるのであり、勝手に下請けに出されては困る場合もあるでしょう。その場合には、契約書に下請を禁止する旨や、発注者からの事前承認を受ける場合にだけ下請けを認める旨の規定を設けることで、この規定が民法の定めに優先されます。
「言った・言わない」や齟齬を避ける
契約書の主な役割の3つ目は、「言った・言わない」や齟齬を避けることです。
たとえば、動画編集の委託の場合、「字幕もつけてほしい」「サムネも作ってほしい」などの要望がある場合もあるでしょう。YouTuberとしては、「動画編集を頼んでいるのだから、これらも当然に委託内容に含まれる」と考えるかもしれません。
しかし、相手が「字幕の作成やサムネの作成は動画編集の範囲外」と考えている可能性もあります。このような場合に、納品物のレビュー時にサムネや字幕がないことを指摘した際に、相手方から「サムネの作成は動画編集の範囲外などで、別料金がかかります」などと主張された際に、対応が困難となるでしょう。
契約書に、委託内容としてはじめから「動画の編集(字幕の作成を含む)、サムネイルの作成」などと明記することで、このような齟齬によるトラブルを避けやすくなります。
YouTuberが契約書を交わさないことで生じ得る主なトラブル
YouTuberが契約書を交わさない場合、どのようなトラブルが生じるのでしょうか?ここでは、契約書がない場合にYouTuberに生じ得る主なトラブルを解説します。
- 約束通りに報酬を払ってもらえない
- 動画編集者から動画の著作権は自身に帰属していると主張される
- 口頭で承諾を得たはずの出演者から動画の削除や出演料の支払いを求められる
- 相手に問題があるのに契約をスムーズに解除できない
約束通りに報酬を払ってもらえない
たとえば知人から口約束でPR案件を依頼された場合、契約書がなければ、報酬を支払ってもらえないおそれが生じます。口頭でも契約は成立するものの、相手から「知人だから無料でよいと言われた」などと主張された場合に、反証が困難となるでしょう。
きちんと契約書を交わすことで報酬の未払いを避けやすくなるほか、未払いが生じた際にも解決をはかりやすくなります。
動画編集者から動画の著作権は自身に帰属していると主張される
契約書を交わしていない場合、動画編集を委託した相手から、動画の著作権は編集者側にあると主張されるおそれが生じます。
著作権とは著作物を保護する権利であり、YouTube動画なども著作物となり得ます。著作権は創作者に帰属するのが原則であるものの、編集者の編集の度合いなどによっては編集者に著作権が帰属する余地もあるでしょう。また、サムネの著作権が編集者に帰属する余地も否定できません。
きちんと契約書を取り交わし、成果物の著作権はYouTuber側にあることを定めておくことで、このようなトラブルを抑止できます。
口頭で承諾を得たはずの出演者から動画の削除や出演料の支払いを求められる
契約書(承諾書)を取り付けていない場合、動画の出演者から「撮影は承諾したが、YouTubeへの投稿は承諾していない」などとして動画の削除を求められる可能性があります。また、無償での出演であることについて口頭で承諾を得ていたものの、「そのような承諾はしていない」として出演料を求められる可能性もあるでしょう。
出演時に撮影とYouTubeへの投稿に関する承諾書を書面で取り付け、報酬(無償である場合は、その旨)を明記することで、このようなトラブルを避けやすくなります。
相手に問題があるのに契約をスムーズに解除できない
「法令違反とまではいえないものの、相手にやってほしくないこと」がある場合も多いでしょう。たとえば、動画編集を依頼する場合であれば、「自分が動画編集を依頼していることを他言してほしくない」「動画公開前に、動画の内容を他言してほしくない」などです。
しかし、これらの行為は法令違反とまではいえない可能性が高く、契約書がなければこれらを理由に契約を解除したり損害賠償請求をしたりするのは困難でしょう。反対に、「理不尽な理由で途中で契約を打ち切られた」として、相手から損害賠償請求をされるかもしれません。
契約書に「禁止事項」としてやってほしくないことを明記し、違反した場合に契約解除や損害賠償請求ができる旨を定めることで、違反時の対応が容易となります。また、違反の抑止力ともなるでしょう。
YouTuberが契約書を交わす際の注意点
YouTuberが契約書を交わす際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、主な注意点を3つ解説します。
- ひな型をそのまま流用しない
- 条項を読まずに押印しない
- 事前に弁護士に相談する
ひな型をそのまま流用しない
1つ目は、ひな型をそのまま流用しないことです。
YouTuber側で契約書を用意する必要がある場合、インターネットなどで見つけたひな型を使おうと考えるかもしれません。しかし、ひな型をそのまま使うことは避けるべきです。
なぜなら、ひな型はあくまでも一般的なケースを前提とした一例であり、自身が締結しようとしている契約の実態に合っているとは限らないためです。実態とは異なる内容の契約書を取り交わせば、トラブルの原因となりかねません。
条項を読まずに押印しない
2つ目は、条項を読まずに契約書に押印をしないことです。
契約書の原案を相手方が用意する場合、条項の内容を理解していないにもかかわらず(場合によっては、条項を読むことさえせず)、安易に押印する場合もあります。
確かに、一消費者として交わす契約であれば、それでも大きな不都合は生じないかもしれません。消費者は、消費者契約法などで手厚く保護されているためです。
一方で、YouTuberは一事業主であり、契約書に仮に不利益な内容が盛り込まれていたとしても原則として自己責任です。そのため、特に重要な契約や影響が長期に及ぶ契約では相手から差し出された契約書にそのまま押印することは避け、十分に内容を理解したうえで押印すべきでしょう。
事前に弁護士に相談する
3つ目は、事前に弁護士に相談することです。
自身で的確な契約書を作成したり、相手から差し出された契約書の問題点を的確に見つけたりすることは容易ではありません。そのため、無理に一人で対応しようとせず、弁護士にご相談ください。
契約書について相談できる弁護士をお探しの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にお問い合わせください。
YouTuberの契約書に関するよくある質問
続いて、YouTuberの契約書に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
契約書の相談は誰にすべき?
YouTuberが取り交わす契約に関する相談先としては、弁護士が適任です。弁護士はトラブルが発生した際に対応することも多く、トラブルから「逆算」して条項の検討が可能であるためです。また、万が一トラブルが生じた際にも対応を任せられるため、安心でしょう。
契約書について相談できる弁護士をお探しの際は、エンタメ弁護士.comまでお問い合わせください。
相手から差し出された契約書の内容は変更できない?
相手から差し出された契約書は「案」であり、交渉によって内容を変更できる可能性があります。
相手から差し出された契約書は、絶対ではありません。そのため、契約書に納得できない条項がある場合にはそのまま応じるのではなく、条項の変更について交渉すべきです。
相手との交渉でお困りの際は、エンタメ弁護士.comまでご相談ください。弁護士が交渉の場に同席したり、交渉を代理したりすることも可能です。
YouTuberの契約書は、エンタメ弁護士.comにお任せください
YouTuberの契約書は、エンタメ弁護士.comにお任せください。エンタメ弁護士.comとは、エンタメ法務に特化した専門家チームです。最後に、エンタメ弁護士.comの主な特長を3つ紹介します。
- カルチャー・エンターテイメント法務に特化している
- 必要に応じて専門家がチーム制で対応する
- 英文契約書にも対応している
カルチャー・エンターテイメント法務に特化している
カルチャー・エンターテイメント業界はやや特殊な業界であり、業界に特化した専門家を探すハードルは低くないでしょう。エンタメ弁護士.comのメンバーは全員がカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、専門家を探す手間を大幅に軽減できます。
必要に応じて専門家がチーム制で対応する
士業はそれぞれ得意とする分野や対応できる分野が異なるため、どの専門家に相談すべきか迷うことも多いでしょう。また、複数の専門家の専門分野にまたがる問題も存在します。
エンタメ弁護士.comは、弁護士・弁理士・行政書士・社会保険労務士・司法書士・税理士・公認会計士が、困りごとの内容に応じてチーム制で対応します。そのため、ご相談にあたって「誰に相談すべきか」と迷う必要はありません。
英文契約書にも対応している
YouTuberによっては、海外の企業や個人と契約を締結する場合もあるでしょう。エンタメ弁護士.comは英文契約書にも対応しているため、海外との契約であっても一貫したサポートが可能です。
まとめ
YouTuberが契約書を交わす場面やYouTuberが知っておくべき契約書の基本、契約書がない場合にYouTuberに生じ得るトラブルなどを解説しました。
契約書は法律の規定を変更したり、契約には規定のない事項を定めたりする役割を持つものです。契約書に定めた事項は、原則として法令よりも優先して適用されます。また、齟齬が生じやすい事項について契約書に明記することで、認識の違いによるトラブルを避ける効果を期待できるでしょう。
エンタメ弁護士.comは弁護士・弁理士である伊藤海が発案した専門家チームであり、YouTuberが交わす契約書の作成・レビューなどのサポートも可能です。YouTuber活動をする中で契約書について相談できる専門家をお探しの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にお問い合わせください。
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