他者の肖像を自社のホームページやYouTubeなどに掲載しようとする際、のちのトラブルを避けるためには肖像権使用許諾契約書を取り交わしておくべきでしょう。
肖像権使用許諾契約書が必要となるのは、どのような場面なのでしょうか?また、肖像権使用許諾契約書を作成する際は、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?
今回は、肖像権使用許諾契約書の基本や取り付けるべき場面、作成時のポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。
肖像権とは
(広義の)肖像権は、「(狭義の)肖像権」と「パブリシティ権」に大別できます。はじめに、それぞれの概要を解説します。
(狭義の)肖像権
(狭義の)肖像権とは、承諾なく容貌や姿態を撮影されたり、撮影された画像や動画を無断で公表されたりしない権利です。人格的な肖像権ともいわれます。
これは、法律に明文化された権利ではありません。しかし、日常生活を送る中でいきなり肖像を撮影されたり撮影された画像をSNSなどで拡散されたりしかねないとなれば、安心して生活することは困難でしょう。そこで、(狭義の)肖像権が判例で確立されてきました。
なお、(狭義の)肖像権はすべての人が有する権利であり、著名人など一部の人に限られるものではありません。
この記事ではこれ以降、単に「肖像権」といった際にはこの(狭義の)肖像権を指すものとします。
パブリシティ権
パブリシティ権は顧客誘引力に着目した権利であり、財産権としての肖像権です。
著名人の肖像には、財産的な価値があります。そうであるからこそ、多くの企業が対価を支払って芸能人などの著名人を広告などに起用するのです。
無断で著名人の肖像が広告などに使用されれば、その著名人は正当な対価を得る機会を逃してしまうでしょう。そこで、著名人などが無断で自己の肖像を使われない権利として、パブリシティ権が確立されています。
パブリシティ権も法令で明文化された権利ではなく、判例で確立されたものです。ただし、パブリシティ権を有するのは原則として顧客誘引力のある著名人などに限られ、一般個人に生ずる権利ではありません。
肖像権侵害となるか否かの考え方
無断での撮影や公表が肖像権侵害となるか否かは、撮影の必要性と撮影によって対象者が受ける権利侵害の度合いを比較衡量して判断します。主に考慮される内容は、次のとおりです。
- 撮影された者の社会的地位
- 撮影された者の活動内容
- 撮影された場所
- 撮影の目的
- 撮影された際の様子
- 撮影の必要性
たとえば、一般個人が自宅内やホテルの個室内などプライベートスペースでくつろいでいる様子を無断で撮影して公表した場合、肖像権侵害にあたる可能性が高くなります。一方、街中でYouTubeなどを撮影する際に通行人として後ろ姿が映り込んだ程度では、肖像権侵害となる可能性は低いでしょう。
無断で行った場合にある行為が肖像権侵害にあたるか否か判断に迷う場合には、あらかじめ弁護士へご相談ください。
肖像権侵害をするとどうなる?
肖像権侵害をすると、どのような事態が生じる可能性があるのでしょうか?ここでは、肖像権侵害によって生じ得る主な事態を解説します。
- 差止請求がなされる
- 損害賠償請求がなされる
- 企業イメージが失墜する
- 個人情報保護法など他の法令に違反する可能性が生じる
差止請求がなされる
肖像権侵害をすると、侵害の対象者から使用をやめるよう請求される可能性が生じます。差止請求をされれば、その肖像を素材として使用しているホームページや広報誌などを修正する必要が生じ、コストがかかることとなるでしょう。
損害賠償請求がなされる
肖像権侵害をすると、損害賠償請求をされる可能性が生じます。本人が知られたくないと考えるプライバシー性の高い情報であれば、賠償金が高額となる可能性があるでしょう。
企業イメージが失墜する
肖像権侵害をすると、企業イメージが失墜する可能性があります。肖像権侵害でトラブルとなれば、他者の権利に無頓着な企業であるとの印象が強くなりかねないためです。
個人情報保護法など他の法令に違反する可能性が生じる
先ほど解説したように、肖像権について正面から規定した法律はありません。しかし、本人を明確に識別できる画像や映像は個人情報保護法に規定する「個人情報」に該当する可能性が高いでしょう。
たとえば、ある宗教の会合を写した写真にA氏が参加している様子が移っている場合、A氏がその宗教の信者であることを示す情報となり得ます。また、ある幼稚園が園児Bの顔を識別できる写真を園のホームページに掲載した場合、Bがその幼稚園に通っていることを示す情報となるでしょう。つまり、肖像権の侵害は同時に、個人情報保護法に違反する可能性があるということです。
個人情報保護法に違反すれば個人情報保護委員会からの指導や命令などの対象となるほか、これに従わなければ罰則の適用対象となります(個人情報保護法178条)。
肖像権使用許諾が必要となる主なケース
肖像権使用許諾が必要となるのは、どのような場面なのでしょうか?ここでは、肖像権使用許諾が必要となる主な場面を紹介します。
- テレビクルーやYouTuberなどが街頭インタビューをする場合
- 自社の従業員の肖像をホームページに掲載する場合
- 学校や保育園などが行事写真をホームページや広報誌などに掲載する場合
- ホームページなどの素材として人の肖像を撮影する場合
テレビクルーやYouTuberなどが街頭インタビューをする場合
1つ目は、テレビクルーやYouTuberなどが街頭インタビューをする場合です。
インタビューをする場合は、その場で肖像権使用許諾を取り付けておくべきでしょう。撮影する許可だけではなく、公表の許可までを受けておくのがポイントです。
自社の従業員の肖像をホームページに掲載する場合
2つ目は、自社の従業員の肖像をホームページやパンフレットに掲載する場合です。
自社の従業員の顔写真をホームページなどに掲載する場合も、肖像権使用許諾を取り付けておくべきでしょう。特に、退職時に写真を消してほしいと要望されるケースは少なくありません。
しかし、パンフレットはまとまったロット数で発注することが多く、1人が退職するたびに作り直すことは困難です。また、ホームページであっても即座に削除できるわけではないでしょう。
肖像権使用許諾を取り付ける際はこの点などを加味して、削除に応じるタイミングなどの規定を盛り込むことをおすすめします。
学校や保育園などが行事写真をホームページや広報誌などに掲載する場合
3つ目は、学校や保育園などが行事写真をホームページや広報誌などに掲載する場合です。
この場合はその都度許諾を取り付けるのではなく、入園・入学や進級のタイミングなどで保護者から許諾を取り付けておくとスムーズでしょう。
ホームページなどの素材として人の肖像を撮影する場合
4つ目は、ホームページなどの素材として肖像を撮影する場合です。
後から「削除してほしい」などと請求された場合などに備え、あらかじめ許諾期間や中途解除の場合の違約金などを明確に定めておくとよいでしょう。
肖像権使用許諾契約書の作成ポイント
肖像権使用許諾契約書を作成する際は、どのような点に注意すればよいのでしょうか?ここでは、契約書に記載すべき主な項目と記載のポイントについて解説します。
- 使用目的を明記する
- 使用料を明記する
- 使用期間を明記する
- 権利の不行使について定める
使用目的を明記する
肖像権使用許諾契約書では、肖像権の使用目的を明記します。たとえば、「株式会社〇〇のパンフレット、チラシ、ホームページ、SNSなどに掲載するため」など、できるだけ明確に記載しましょう。
使用目的を明記することで相手が使用を許諾するか否かを判断しやすくなるほか、ある使用が許諾の範囲内であるか否かについて齟齬が生じる可能性を引き下げることができるためです。
また、特に被写体が不安に感じる可能性がある場合には「ポルノや風俗としての使用は許諾しない」などの付記をする場合もあります。
使用料を明記する
肖像権使用許諾契約書では、使用料を明記しましょう。後のトラブルを避けるため、使用料を無償とする場合にもその旨を明記することをおすすめします。
使用期間を明記する
肖像権使用許諾契約書では、使用を許諾する期間を明記します。期間は「契約日から〇年間」などとする場合もあれば、「使用期間に制限は設けない」などとする場合もあります。
権利の不行使について定める
肖像権使用許諾契約書では、プライバシー権など人格権を行使したり許諾した肖像権使用について差止請求や損害賠償請求をしたりしないことを確認する規定を設けます。このような確認規定を設けておくことで、後日トラブルとなる事態を避けやすくなるためです。
肖像権使用許諾契約書の作成を弁護士に任せたほうがよい理由
肖像権使用許諾契約書の作成は弁護士に任せるのがおすすめです。ここでは、肖像権使用許諾契約書の作成を弁護士に依頼すべき主な理由を2つ解説します。
- 想定される肖像権の使用に則した的確な契約書の作成が可能であるから
- トラブル発生時に自社を守ることにつながるから
想定される肖像権の使用に則した的確な契約書の作成が可能であるから
インターネットで検索すると、肖像権使用許諾契約書のひな形(テンプレート)は見つかることでしょう。
しかし、ひな形をそのまま使用することはおすすめできません。なぜなら、ひな形はあくまでも一定のケースを前提として作られており、自社が想定している肖像権の使用を踏まえて作られているわけではないためです。
内容をよく理解しないままひな形をそのまま使用してしまうと、自社が希望する内容で肖像権の使用ができないかもしれません。また、ひな形をベースとして一部を作り変えようにも、自社だけで適切に改訂することは容易ではないでしょう。
契約書には相互に関連している条項なども多く、作り変えるのであれば全体の整合性も確認する必要があるためです。
弁護士へ依頼することで、自社が想定している肖像権の使用に則した内容で的確な肖像権使用許諾契約書の作成が可能となります。
トラブル発生時に自社を守ることにつながるから
契約書の最適解は1つではありません。自社の立場によって、最適な条項などは異なります。
肖像権使用許諾契約書でも、「他者の肖像権を使用したい側」と「他者に自身の肖像権使用を許諾する側」とでは、望ましい条項が異なるということです。
とはいえ、自社が一方的に有利となる条項ばかりをあからさまに盛り込むと、相手が肖像権使用許諾契約書にサインをしてくれない可能性が高くなるほか、SNS上で「炎上」するなど自社のイメージが低下するかもしれません。また、場合によっては消費者契約法が適用され、一方的に有利な条項が無効となる可能性も生じます。
そのため、自社の立場や肖像権使用の目的などに応じてトラブル発生時に自社を守れるような内容を盛り込みつつ、全体のバランスにも配慮することが必要です。弁護士に依頼することで、トラブル発生時に自社を守る内容の契約書を作成しやすくなります。
肖像権使用許諾契約書の作成はエンタメ弁護士.comへお任せください
肖像権使用許諾契約書の作成は、エンタメ弁護士.comへお任せください。最後に、エンタメ弁護.comの概要と主な特長を紹介します。
エンタメ弁護士.comとは
エンタメ弁護.comは、芸術・カルチャー・エンターテインメントに携わる企業、アーティストやクリエイターに特化した法律顧問サービスです。弁護士であり弁理士でもある伊藤海が、エンターテインメント分野に知見の深い各専門家に声をかけ、チームを創設しました。文化を愛し尊重している多様なバックグラウンドを持つ専門家が集まることで、クライアントの皆様への上質で最適な価値提供を実現しています。
エンタメ弁護士.comの主な特長
エンタメ弁護.comの主な特長は次の3点です。
- 芸術・カルチャー・エンターテイメント分野へ特化している
- チーム制でサポートする
- 英文契約書にも対応している
芸術・カルチャー・エンターテイメント分野へ特化している
エンタメ弁護.comは、芸術・カルチャー・エンターテイメント分野に特化してサービスを提供しています。
最適なリーガルサポートを提供するには、業界への理解は不可欠だといえます。しかし、これらの業界はやや特殊であり、業界事情にくわしい専門家は多くないのが現状です。
エンタメ弁護士.comはすべての専門家が芸術・カルチャー・エンターテイメント分野に特化しているため、より実態に即したリーガルサポートが可能です。また、業界内でよく使用される用語や取引慣習などについて、一からご説明いただく必要もありません。
チーム制でサポートする
エンタメ弁護.comは、チーム制で対応しています。
専門家の対応範囲は、それぞれ業法(弁護士法や税理士法、行政書士法など)で制限されています。たとえば、法人登記の申請ができるのは司法書士であり、行政書士は行うことができません。
誤った専門家に相談してしまうと、時間や労力が無駄となるおそれが生じます。とはいえ、どの専門家が何に対応できるのか把握することには、多大な手間を要するでしょう。
エンタメ弁護士.comでは、各専門家がチーム制でサポートにあたっており内容に応じて適切な専門家が対応するため、「どの専門家に相談すべきか」とクライアント様において悩んでいただく必要はありません。
エンタメ弁護士.comのチームメンバーは、次のとおりです。
- 弁護士・弁理士(伊藤海)
- 弁護士
- 行政書士
- 社会保険労務士
- 司法書士
- 公認会計士・税理士
英文契約書にも対応している
エンタメ弁護.comは、英文契約書にも対応しています。
芸術・カルチャー・エンターテイメント分野においては、海外と契約を交わすべき場面も少なくないでしょう。しかし、顧問弁護士が英文契約書に対応していない場合、その都度他の弁護士を見つけて依頼する必要が生じます。
エンタメ弁護.comは英文契約書にも対応しているため、海外との契約の際にも一貫したサポートが可能です。
まとめ
肖像権の概要と肖像権使用許諾契約書が必要となる主な場面、肖像権使用許諾契約書作成時の主なポイントなどを解説しました。
他者の肖像を人物が確認できる状態でホームページなどのウェブ媒体や広報誌などの紙媒体に掲載しようとする際には、肖像権使用許諾契約書を取り付けておくことをおすすめします。肖像権使用許諾契約書がなければ後から情報を消すよう請求されたり、損害賠償請求をされたりする事態が生じる可能性があるためです。
また、他者の権利保護に関する意識が低い企業であると判断され、企業イメージが失墜する可能性も否定できません。そのような事態を避けるため、他者の肖像を使用しようとする際は、肖像権使用許諾契約書を交わしておくことをおすすめします。
また、自社の状況にあった内容で契約書を作成するため、ひな形などをそのまま流用するのではなく弁護士に依頼して作成するとよいでしょう。
エンタメ弁護.comでは、芸術・カルチャー・エンターテイメント分野にくわしい専門家がチーム制でリーガルサポートを行っており、肖像権使用許諾契約書の作成支援も可能です。肖像権使用許諾契約書など契約書や書式の作成でお困りの際は、エンタメ弁護.comまでお気軽にご相談ください。