タレント等は事務所に所属して活動する場合のほか、個人事務所を設立して活動する場合もあります。
タレント等が個人事務所を設立するメリットやデメリットは、どのような点にあるのでしょうか?また、個人事務所の設立にあたっては、どのようなトラブルが想定されるのでしょうか?
今回は、タレント等の活動形態や個人事務所設立のメリット・デメリット、個人事務所設立にまつわるトラブルなどについて、芸能分野にくわしい弁護士が解説します。
タレント等の主な活動形態
タレントや声優、アイドル、アーティストなど(以下、「タレント等」といいます)の活動形態には、主に次の3種類があります。
- マネジメント契約
- エージェント契約
- 個人事務所設立
はじめに、それぞれの活動形態について概要を解説します。
マネジメント契約
マネジメント契約とは、芸能事務所に所属し、タレント等のマネジメントを芸能事務所が行う活動形態です。タレント等が仕事を獲得するための営業活動から、スケジュール管理やギャラの交渉、ブランディング、トラブル対応に至るまで、ほとんどすべてのサポートを所属事務所が担います。
そのため、タレント等は自身の芸能活動に専念しやすくなることがメリットです。
報酬については、獲得した仕事のギャラを所属事務所とタレント等とで分け合う形態のほか、定額給与制やこれらのハイブリット型などが存在します。所属事務所が担う業務が多い分、タレント等のギャラの取り分は少なくなる傾向にあります。
エージェント契約
エージェント契約とは、芸能事務所などのエージェントが、タレント等の仕事獲得とギャラの交渉だけを担う活動形態です。欧米などでは主流の活動形態であり、日本でも近年注目されつつあります。
タレント等が自身で活動方針やスケジュールを決めやすく、マネジメント契約よりも活動の自由度が高いといえます。また、エージェントが担う業務が少ないため、マネジメント契約よりもタレント等のギャラの取り分が多くなりやすいこともメリットです。
その反面、仕事獲得以外の業務(ブランディングやトラブル対応など)はタレント等が自身で行うか、自身で弁護士などの専門家に対応を依頼しなければなりません。
個人事務所設立
個人事務所設立とは、タレント等が自身で事務所を立ち上げて活動する形態です。多くのタレント等を擁する芸能事務所とは異なり、所属タレントは原則として自身一人(もしくは、自身が所属するグループだけ)となります。
個人事務所を設立した場合、芸能活動にまつわるすべての活動を自身で行わなければなりません。インフルエンサーなどは従業員などを雇用せず、完全に一人だけで活動することも少なくないでしょう。
一方、活動の幅が広がると自身だけでは対応しきることは現実的ではなくなるため、必要に応じてマネージャーを雇用したり事務スタッフを雇用したりします。また、税務申告やトラブル対応などについては、税理士や弁護士などの専門家との顧問契約を締結して対応することが一般的です。
タレント等が個人事務所を設立する主なメリット
タレント等が個人事務所を設立して活動することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、マネジメント契約と比較した主なメリットを2つ解説します。
- 自身で仕事を選択できる
- 収入が増えやすい
自身で仕事を選択できる
1つ目は、タレント等が自身で仕事を選択できることです。
マネジメント契約の場合は、ブランディングの一環として、所属事務所がある程度仕事を選ぶことが一般的です。そのため、所属事務所と方針が合わなければ自身がやりたい仕事がしづらかったり、自身の意に沿わない仕事を受けざるを得なかったりする事態が生じます。また、タレント等が仕事をすればするほど事務所にも収入が入るため、無理なスケジュールを組まれて休みが取りづらくなる場合もあるでしょう。
一方で、個人事務所を設立して活動する場合は、意に沿わない仕事を断ることも新たな分野の仕事獲得にチャレンジすることも自由であり、自身の方向性を自分で決めることが可能です。また、休暇などのスケジュールも自分で決めることができます。
収入が増えやすい
2つ目は、収入が増えやすいことです。
マネジメント契約の場合は、タレント等と所属事務所がギャラを分け合うこととなります。また、定額報酬制の場合は、いくら仕事をしてもタレント等の報酬が増えるわけではありません。
一方、個人事務所を設立して活動する場合は、仕事のギャラはすべて所属事務所に入ります。そのため、マネジメント契約の場合と比較して、収入が増えやすいといえるでしょう。
タレント等が個人事務所を設立する主なデメリット・注意点
タレント等が個人事務所を設立することには、デメリットもあります。個人事務所の設立はメリットだけではなく、デメリットや注意点についても十分に理解したうえで選択すべきでしょう。
ここでは、個人事務所を設立して活動することの主なデメリットと注意点を4つ解説します。
- 自分で営業活動をする必要がある
- 経理や契約締結などすべてが自己責任となる
- コストがかかりやすい
- 不祥事やトラブル発生時に事務所が守ってくれない
自分で営業活動をする必要がある
1つ目は、自分で営業活動をする必要があることです。
マネジメント契約の場合は所属事務所が営業活動をしてくれるため、タレント等が自身で営業活動をすることはないでしょう。
一方、個人事務所を設立した場合は、自身の責任で営業活動をしなければなりません。そのため、営業力が弱い場合には、思ったように仕事が獲得できないおそれがあります。また、営業先からの電話やメールに対応すべきであることを、ストレスに感じる場合もあるでしょう。
なお、個人事務所であってもマネージャーや事務員を雇用して、対応を任せることも可能です。ただし、その場合には当然ながら、雇用したマネージャーや事務員の給与を支払わなければなりません。
経理や契約締結などすべてが自己責任となる
2つ目は、経理業務や契約締結などが、すべて自己責任となることです。
マネジメント契約の場合はこれらの業務は所属事務所が行うため、タレント等が自身で行うべき事務作業はほとんどないでしょう。
一方、個人事務所を設立した場合は、経理業務や契約締結などもすべて自身の責任で行わなければなりません。また、経理担当者や法務担当者を雇用するなどして対応することもできるものの、その場合は給与の支払いが発生します。
コストがかかりやすい
3つ目は、コストがかかりやすいことです。
個人事務所を設立するとギャラが全額個人事務所に入るため、収入自体は多くなる傾向にあります。一方で、「出ていくお金」も増えるため、結果的に手元に残るお金が増えるか否かを慎重に比較検討しなければなりません。
出ていくお金として特に比率の高いものは、人件費です。タレント等が多忙である場合や事務作業などが得意ではない場合、事務所業務のすべてをタレント等自身が担うことは困難でしょう。
この場合は、必要に応じて、次の業務を担う人などを雇用することとなります。
- 営業や取引先との交渉を担う営業担当者
- スケジュール管理をするマネージャー
- 経理担当者
- 事務員
- 法務担当者
これらは一人がすべてを担う場合もある一方で、これらすべての業務をそつなくこなせる人材はさほど多くありません。また、必要に応じて外部の専門家へ依頼する必要も生じます。たとえば、トラブル対応や法律相談をする弁護士、税務申告を依頼する税理士などです。
人件費や専門家報酬のほかには、事務所家賃や光熱費、通信費、移動に要する交通費などもかかります。
このように、個人事務所を設立すると、マネジメント契約の際にはかからなかった(事務所の取り分から賄われていた)コストの負担が生じることに、注意が必要です。
不祥事やトラブル発生時に事務所が守ってくれない
4つ目は、不祥事やトラブルが発生したとしても、事務所に守ってもらえないことです。
マネジメント契約では、タレント等として活動する中で不祥事を起こしたりトラブルに巻き込まれたりした場合、所属事務所が可能な限り対応してくれます。
一方で、個人事務所を設立して活動している場合は、事務所に守ってもらうことができません。そのため、不祥事を起こさないよう特に注意するとともに、トラブル発生時に代わりに対応してくれる弁護士と顧問契約を締結するなどの対策が必要となります。
タレント等が個人事務所を設立する際のよくあるトラブル
タレント等が個人事務所を設立する際には、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。ここでは、個人事務所設立にまつわる主なトラブルを紹介します。
- 所属事務所が独立を認めない
- 高額な違約金を請求される
- 退所後、長期に渡ってタレント活動を禁じられる
- 過去の著作物が使用できない
このようなトラブルが予期される場合やすでにトラブルが生じている場合は、無理に自身だけで対応したり諦めたりせず、エンタメ法務にくわしい弁護士へご相談ください。たとえ契約書に明記されている事項であっても、弁護士が代理で交渉することで解決できるケースは、少なくありません。
所属事務所が独立を認めない
タレント等が個人事務所の設立を希望する場合であっても、所属事務所が独立を認めないトラブルです。所属事務所との詳細な契約書自体がない場合のほか、契約書に非常に長期の契約期間が定められており、その契約期間を経過するまで退所させないと主張される場合もあります。
ただし、あまりにも長期に渡る契約は無効とできる可能性や、短縮できる可能性があります。
高額な違約金を請求される
タレント等が個人事務所を設立するために事務所の退所を申し入れた際に、高額な違約金を請求されるトラブルです。違約金の予定額が、マネジメント契約書に定められている場合もあります。
ただし、あまりにも高額な違約金の定めは無効とできる可能性や、減額ができる可能性があります。
退所後、長期に渡ってタレント活動を禁じられる
タレント等が事務所を退所した後、長期に渡って同種の活動が禁じられるトラブルです。
長期間タレント等としての活動ができないとなれば、事実上退所できないのと同じでしょう。長期に渡る競業避止義務が、契約書に定められていることも少なくありません。
ただし、長期に渡って同種の活動を禁じることは日本国憲法に定める職業選択の自由に違反する可能性があり、事務所側の主張を覆すことができる可能性があります。
過去の著作物が使用できない
タレント等が退所した後、自身の著作物を利用できなくなるトラブルです。
著作権とは、著作物を保護するための法律です。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を指します(著作権法2条1項1号)。
タレント等はその性質上、著作物の創作にかかわることが少なくありません。また、ドラマの脚本を演じた俳優や他者が作詞作曲した曲を歌っている歌手など、著作物を演じた場合も、著作隣接権として保護の対象となります。
原則として、著作権は著作物を「創作」した者に発生します。たとえば、タレント等が作詞作曲をした場合、その詞や楽曲の著作権はタレント等に帰属します。しかし、著作権は譲渡できるため、所属事務所などに著作権が譲渡されているケースも少なくありません。
その場合、たとえ作詞や作曲をした本人であっても、著作権者である事務所の許諾を得なければ、その楽曲をレコーディングしなおしたりライブや出演したテレビ番組で歌ったりすることはできなくなります。
著作権は非常に複雑な権利であり、誤解も少なくありません。また、事務所側の主張が誤っている可能性もあります。そのため、諦める前に、弁護士などの専門家へご相談ください。
個人事務所の設立は「エンタメ弁護士.com」へお任せください
個人事務所の設立をご検討の際や個人事務所の設立に関して困りごとが生じている際には、「エンタメ弁護士.com」へご相談ください。後に、エンタメ弁護士.comの概要を解説します。
エンタメ弁護士.comとは
エンタメ弁護士.comとは、芸術やカルチャー、エンターテインメントに携わる企業、アーティスト、クリエイターに特化した法律顧問サービスを提供するチームです。弁護士であり、弁理士でもある伊藤海が創設しました。
文化を愛し、尊重する専門家がチームを組み、タレントや声優、アイドル、アーティストなど芸能活動に携わるみなさまを総合力でサポートします。
サポート内容
エンタメ弁護士.comのメンバーと主なサポート内容は次のとおりです。
- 弁護士・弁理士(伊藤海):カルチャー・エンターテインメント法務、ファッション・アパレル法務、テクノロジー法務、知的財産権法、ライセンス取引、商標権マネジメント等
- 弁護士:スタートアップ法務、AI・データ等の先端テクノロジー法務(エンタメ掛け合わせサービスを含む)、広告・キャンペーン審査、資金調達、SO発行、M&A、IPO準備、規約・プラポリ作成などその他日常企業法務等
- 行政書士:芸術エンタメ補助金申請、動画制作補助金、芸術エンタメ法人設立、任意団体設立、芸術団体経営コンサルティング、個人クリエイターアーティスト開業サポート
- 社会保険労務士:労務相談、労働保険・社会保険手続き代行、就業規則作成、人事労務管理クラウドサービス導入支援、クリエイティブ職の評価制度導入支援、エンターテインメント健康保険組合加入サポート、芸能従事者の労災特別加入サポート
これらは一例であり、ここに挙げた以外のサポートも可能であるため、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。
個人事務所の設立に際しては、所属事務所からの独立交渉の代理から法人設立手続き、スタッフを雇用する場合の社会保険関連手続き、著作権など知的財産の権利処理などのサポートが可能です。お困りの際は、お気軽にご相談ください。
特長
エンタメ弁護士.comの主な特長は次の3つです。
- エンタメ法務に特化している
- チーム制であり総合的なサポートが可能である
- 外国語の契約書にも対応している
エンタメ法務に特化している
エンタメ弁護士.comは、エンタメ法務に特化した専門家から構成されています。そのため、業界内の事例にくわしく、安心してお任せいただけます。
業界慣習や用語なども熟知しているため前提を一から説明いただく必要がなく、やり取りがスムーズです。
チーム制であり総合的なサポートが可能である
エンタメ弁護士.comは、弁護士や弁理士、行政書士、社会保険労務士、司法書士、税理士、公認会計士がチーム制で対応します。そのため、「誰に相談すればよいかわからない」といった場合でも、エンタメ弁護士.comにご相談いただくことで、適切な専門家がサポートします。
外国語の契約書にも対応している
海外にも活動の場を拡げている場合、外国語での契約書を交わす機会も少なくありません。
エンタメ弁護士.comでは、外国語の契約書にも対応しているため、総合的なサポートが可能です。
まとめ
タレント等が個人事務所を設立して活動するメリットやデメリット、個人事務所設立にまつわるトラブル例などについて解説しました。
個人事務所を設立して活動することで活動の自由度が高まるほか、タレント等の収入が増える傾向にあります。その反面、原則としてすべてが自己責任となることや、コストがかかりやすい点に注意しなければなりません。
また、個人事務所設立にあたっては、退所する事務所との間でトラブルが生じることがあります。
エンタメ弁護士.comでは、個人事務所設立の手続きや事務所退所にまつわるトラブル解決などを、総合力でサポートします。個人事務所設立や事務所の退所などでお困りの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご相談ください。