新たに芸能事務所を立ち上げようにも、何から手を付けたらよいかわからない方も少なくないでしょう。
芸能事務所の立ち上げにはどのような手続きが必要となるのでしょうか?また、芸能事務所の立ち上げにあたっては、どのようなトラブルが予想されるのでしょうか?
今回は、芸能事務所の立ち上げについて、エンタメ法務にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
芸能事務所とは
芸能事務所とは、俳優やアーティスト、モデル、芸人、タレントなど「芸能人」のために、仕事の獲得交渉や価格交渉などを行う会社です。
ただし、「芸能事務所」は法律用語ではなく、芸能事務所という種類の法人形態が存在するわけではありません。芸能事務所は一般的に、株式会社や合同会社などの法人形態をとることが多いでしょう。
そのため、登記上は「〇〇芸能事務所」という名称ではなく、「〇〇株式会社」「株式会社〇〇」「合同会社〇〇」などの名称となります。
会社法の規定により、株式会社には「株式会社」、合同会社には「合同会社」を含む商号(社名)を付ける必要があるためです。ただし、「〇〇芸能事務所株式会社」としての登記は可能でしょう。
なお、法人を設立するのではなく、個人事業として芸能事務所を立ち上げることも不可能ではありません。ただし、個人事業の場合には公的書類や契約書などに代表者個人の住所の記載が必要となるなど、不都合も少なくないでしょう。そのため、現実的には芸能事務所は法人形態とすることが多いようです。
芸能事務所を立ち上げるパターン
芸能事務所を立ち上げるには、主に2つのパターンがあります。
- 自身が活動するための芸能事務所(いわゆる個人事務所)を立ち上げる
- 複数の芸能人を擁する芸能事務所を立ち上げる
ここでは、それぞれの概要を解説します。
自身が活動するための芸能事務所(いわゆる個人事務所)を立ち上げる
1つ目は、自身が活動するための芸能事務所を立ち上げる場合です。この形態は、「個人事務所」と呼ばれることもあります。
ただし、「個人事務所」は法律用語ではなく、あくまでも「芸能人である自身の活動をマネジメントする、個人用の事務所」としての意味で使われる用語です。「個人事務所=(法人ではなく)個人事業」ではないため、混同しないようご注意ください。実際に、個人事務所であっても、法人形態をとることが一般的です。
個人事務所である芸能事務所を立ち上げるケースには、主に次の2つのパターンがあります。
- 他の芸能事務所に所属して活動していた芸能人がその事務所から独立し、個人事務所を立ち上げる
- 他の事務所に所属せず、はじめから個人事務所を立ち上げて活動する
俳優やタレント、芸人などが芸能事務所を立ち上げる場合、「1」のケースであることが多いでしょう。一方で、インフルエンサーやYouTuber、VTuberなどは「2」のケースであることも少なくありません。
複数の芸能人を擁する芸能事務所を立ち上げる
2つ目は、複数の芸能人を擁する芸能事務所を立ち上げる場合です。このケースでは、代表者自身も芸能活動をすることがある一方で、代表者は芸能活動をせず、会社経営やマネジメントに注力することも少なくありません。
また、当初は個人事務所であったものの、後に複数の芸能人を擁することとなる場合もあります。
芸能事務所の立ち上げに必要な公的手続き
芸能事務所を立ち上げるには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?ここでは、法人形態で芸能事務所を立ち上げる場合を前提に、必要となる主な公的手続きについて解説します。
- (法人の場合)定款を作成し設立登記をする
- 税務署に開業届などを提出する
- (人を雇う場合)給与支払事務所等の開設届出書などを提出する
(法人の場合)定款を作成し設立登記をする
法人(株式会社や合同会社など)として芸能事務所を立ち上げる場合、法務局で法人設立の登記をしなければなりません。
法人設立に先立って、会社組織の基本ルールである「定款(ていかん)」を作る必要があります。また、株式会社の場合は、あらかじめ公証役場で定款の認証を受けなければなりません。
定款のひな形は、インターネットを検索すれば多く見つかることでしょう。しかし、定款は会社のルールを定めるものであり、ひな形の安易な流用はおすすめできません。そのため、設立登記は専門家のサポートを受けて行うことをおすすめします。
税務署に開業届などを提出する
法人を設立した場合、税務署などの開業届を提出しなければなりません。この際、必要に応じて「青色申告承認申請書」などを提出します。
青色申告とは、帳簿の保存などを適正に行うことを条件に、欠損金の繰越などで税制上の優遇が受けられるものです。青色申告の適用を受けるためには、「青色申告承認申請書」を税務署に提出しなければなりません。
必要に応じて税務署に提出すべき書類は他にも多く存在するため、あらかじめ税理士などへご相談ください。
(人を雇う場合)給与支払事務所等の開設届出書などを提出する
給与を支給する場合には、税務署に給与支払事務所等の開設届出書の提出が必要です。
なお、法人の場合は役員にも給与を支払うこととなるため、他に従業員を雇用せず代表取締役1名だけの会社であっても、この届出をしなければなりません。また、日本年金機構へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出するなど、社会保険に関する手続きも必要です。
芸能事務所の立ち上げで必要となるその他の主な手続き
芸能事務所の立ち上げでは、公的手続き以外にもさまざまな手続きが必要となります。ここでは、必要となることが多い主な手続きについて解説します。
- 資金調達
- 事務所の手配
- タレントの雇用や育成
- 各種契約書の整備
- (他の事務所からの独立の場合)事務所からの独立交渉
資金調達
1つ目は、資金調達です。
芸能事務所の立ち上げ直後は、活動資金が乏しい場合も多いでしょう。安定的な収入がなかったとしても、事務所の賃料や光熱費などがかかるためです。また、人を雇用する場合には、スタッフの給与も支払わなければなりません。
そのため、芸能事務所を立ち上げたら、必要に応じて資金調達を行います。もっともスタンダードな資金調達方法は、銀行などから融資を受けることです。
法人の設立当初はまだ信用が育っていないため、一般の金融機関から融資を受けることは容易ではありません。その反面、日本政策金融公庫などでは、創業期に金利の優遇などの措置が受けられるなど、創業期だからこそ使いやすい融資制度もあります。そのため、やみくもに融資を申し込むのではなく、専門家に相談したうえで適切な融資制度に申し込むとよいでしょう。
また、活動内容などによっては、補助金の対象となる可能性もあります。補助金とは、国や地方公共団体、独立行政法人などから返済不要のまとまった資金を受け取れる制度です。
ただし、要件を満たして申し込めば必ず受け取れるわけではなく、補助対象として相応しいとして複数の応募の中から選ばれなければなりません。創業期の資金調達を成功させたい場合には、専門家へご相談ください。
事務所の手配
2つ目は、事務所の手配です。
芸能事務所の立ち上げでは、事務所が必要となることが多いでしょう。事務所がなく自宅で活動する場合、原則として自宅宛に業務に関するさまざまな郵便物が届くこととなります。
また、法人の本店所在地はその会社の全部事項証明書(登記簿謄本)を取ることで誰でも見ることができるため、不用心でもあるでしょう。いわゆる「住所貸し」などバーチャルオフィスも存在しますが、実態としての事務所がなければ融資が受けづらい可能性があるほか、許認可の取得が必要となった際に支障が生じるおそれもあります。
そのため、必要に応じて事務所の手配(賃貸借契約の締結)などを行います。なお、住宅用として借りた物件を無断で事務所として登記すればオーナーとの間でトラブルとなるおそれがあるため、ご注意ください。
タレントの雇用や育成
3つ目は、タレントの雇用や育成です。他のタレントも擁する事務所を想定している場合、必要に応じてタレントの雇用や育成をしなければなりません。
タレントの雇用やタレントとのマネジメント契約の締結をご検討の際は、あらかじめ弁護士へご相談ください。なぜなら、タレントと事務所とのトラブルは多く、契約書がなかったり契約書の内容に問題があったりすれば事務所側が不利となる可能性が高いためです。
長期的な視点で芸能事務所の発展を目指す場合は、弁護士のサポートを受け、一つずつ着実に契約締結などを進めていくことをおすすめします。
各種契約書の整備
4つ目は、各種契約書の整備です。
芸能事務所などの法人を立ち上げると、各所と契約を締結する機会が格段に増加します。たとえば、タレントを擁する場合、そのタレントとのマネジメント契約書や雇用契約書などが必要です。
また、出演契約書や業務委託契約書なども必要となるでしょう。このような契約書は、あらかじめ自社用のテンプレートを作っておくと運用がスムーズとなります。
契約書に不備があると、トラブル発生時に不利となってしまいかねません。お困りの際は、エンタメ法務に強い弁護士へご相談ください。
(他の事務所からの独立の場合)事務所からの独立交渉
5つ目は、他の事務所からの独立交渉です。
タレントなどが他の事務所から独立して芸能事務所を立ち上げる場合、それまでの所属事務所との間で独立交渉をする必要が生じます。独立交渉はトラブルとなるケースも多く、あらかじめ弁護士へ相談したうえで慎重に進める必要があるでしょう。
所属事務所の退所にあたって生じやすいトラブルは、次でくわしく解説します。
所属事務所を退所して芸能事務所を立ち上げる場合のよくあるトラブル
タレントやアーティストなどが所属事務所を退所して芸能事務所を立ち上げる場合、どのようなトラブルが生じる可能性があるのでしょうか?ここでは、よくあるトラブルの例を紹介します。
- 所属事務所が退所を認めない
- 高額な違約金を請求される
- 退所後、長期に渡って芸能活動を禁止される
なお、いずれの場合であっても、弁護士が代理で交渉することで解決できる可能性があります。「契約書に書かれている」などといわれても諦めず、まずは退所交渉の実績が豊富な弁護士へご相談ください。
所属事務所が退所を認めない
芸能事務所を退所しようにも、所属事務所が退所を認めないケースです。
契約書などに非常に長期に渡る契約期間が記載されており、これを理由に退所を拒否されることも少なくありません。また、タレント等の活動名の商標権を芸能事務所が有しているとの主張から、退所後における活動名の変更を求められる場合もあります。
高額な違約金を請求される
芸能事務所の退所にあたり、高額な違約金を請求されるケースです。事務所側が独自に試算した「損害額」などを請求される場合のほか、初めから契約書に高額な違約金が記載されている場合もあります。
退所後、長期に渡って芸能活動を禁止される
退所後、長期に渡って芸能活動を禁止されるケースです。退所後の競合避止について、契約書に記載されていることも少なくありません。
ただし、日本国憲法では職業選択の自由が定められており、長期の活動禁止はこれに違反する可能性が高いでしょう。お困りの際は、弁護士へご相談ください。
芸能事務所の立ち上げはエンタメ弁護士.comにお任せください
芸能事務所の立ち上げをご検討の際は、「エンタメ弁護士.com」へご相談ください。最後に、エンタメ弁護士.comの概要と主な特長を紹介します。
エンタメ弁護士.comとは
エンタメ弁護士.comとは、エンタメ法務に特化した専門家によるサポートチームです。弁護士であり弁理士でもある伊藤海が、ご相談者様により総合的なサポートを提供したいとの想いで創設しました。
エンタメ弁護士.comでは芸術やカルチャー、エンターテインメントに携わる企業、アーティスト、クリエイターに特化した法律顧問サービスを提供しています。
エンタメ.comのメンバーと主なサポート内容
エンタメ弁護士.comのメンバーと主なサポート内容は、次のとおりです。
- 弁護士・弁理士(伊藤海):カルチャー・エンターテインメント法務、ファッション・アパレル法務、テクノロジー法務、知的財産権法、ライセンス取引、商標権マネジメントなど
- 弁護士:スタートアップ法務、AI・データなどの先端テクノロジー法務(エンタメ掛け合わせサービスを含む)、広告・キャンペーン審査、資金調達、SO発行、M&A、IPO準備、規約・プラポリ作成などその他日常企業法務など
- 行政書士:芸術エンタメ法人設立、任意団体設立、芸術エンタメ補助金申請、動画制作補助金、芸術団体経営コンサルティング、個人クリエイターアーティスト開業サポート
- 社会保険労務士:労務相談、労働保険・社会保険手続き代行、就業規則作成、人事労務管理クラウドサービス導入支援、クリエイティブ職の評価制度導入支援、エンターテインメント健康保険組合加入サポート、芸能従事者の労災特別加入サポート
- 司法書士:会社法人設立、各種変更登記、定款の見直し、株主総会・取締役会議事録作成など
- 公認会計士・税理士:会計監査、内部統制監査、内部統制構築支援、経理コンサルティング、エンタメ・クリエイター業の税務顧問、確定申告書作成、税務調査立会、クラウド会計導入支援、法人成りシミュレーションなど
ここで挙げたものは一例であり、必要に応じてこれら以外のサポートも可能です。芸能事務所の立ち上げや運営、独立交渉などトータルでサポートを受けられる専門家をお探しの際は、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご相談ください。
エンタメ弁護士.comの主な特長
エンタメ弁護士.comの主な特長は次の3点です。
- エンタメ法務に特化している
- 各専門家がチーム制で対応する
- 外国語の契約書にも対応している
エンタメ法務に特化している
エンタメ弁護士.comでは、エンタメ法務に特化した専門家から構成されています。
芸能業界はやや特殊な分野であり、業界事情や業界慣習、業界に特化して事例などを知らなければ適切なサポートは困難でしょう。エンタメ弁護士.comのメンバーは芸能・エンタメ分野に特化しているため、業界に関する深い知識を前提とした最適なサポートを実現しています。
各専門家がチーム制で対応する
エンタメ弁護士.comでは、専門家がチーム制でサポートします。
困りごとが生じた際、「これはどの専門家に相談すればよいのだろう」と悩んでしまうケースは少なくありません。不適当な専門家へ相談してしまうと、大切な時間を無駄にすることとなりかねません。
エンタメ弁護士.comは、必要な専門家がチーム制で対応するため、適切なメンバーによるスムーズな対応が可能です。
外国語の契約書にも対応している
グローバル化の進展により、芸能事務所では海外の企業などと契約すべき場面もあるでしょう。エンタメ弁護士.comでは外国語の契約書にも対応しているため、安心してお任せいただけます。
まとめ
芸能事務所の立ち上げに必要な手続きや、よくあるトラブルなどについて解説しました。
芸能事務所を立ち上げるには法人設立登記など公的な手続きが必要となるほか、状況に応じて資金調達や事務所の手配なども行わなければなりません。また、他の事務所から独立して芸能事務所を立ち上げる場合には、事務所からの独立交渉も必要です。
このように、芸能事務所の立ち上げには非常に多くの手続きや交渉が生じます。専門家のサポートを受けることで、必要な手続きや交渉をスムーズかつ確実に進めやすくなるでしょう。エンタメ弁護士.comでは芸能・エンタメ法務に特化した専門家がチーム制でサポートするため、芸能事務所の立ち上げやその後の運営にまつわるあらゆるリーガルサポートが可能です。芸能事務所の立ち上げをご検討の際には、エンタメ弁護士.comまでお気軽にご相談ください。